ドルチェ セグレート
ふたりで気まずい思いのまま、しばらく無言で座っていると、突然彼がすっくと立ちあがる。
吃驚した目で見上げると、照れた顔を隠すように視線を逸らされた。

「ちょっと待ってて」
「え? はい……」
 
ひとこと残し、神宮司さんは休憩室に隣接された奥の部屋へと姿を消す。
『あっちにも部屋があるんだ』なんて、呑気なことを思って待っていると、すぐにまた戻ってきた。

「多すぎかって聞いておいて、出しづらいんだけど」
 
そう言って、神宮司さんは私の目の前に箱を置いた。

「これは……?」
「そっと開けてみて」
 
きょとんとして箱に視線を落とし、もう一度顔を上げると、神宮司さんが腰を下ろして言った。
 
渡された箱は、ケーキの箱とは少し違う。
オレンジ色のふたをした、立方体の箱は片手より少し大きめのもの。
もしかしたら、クッキーを数枚入れるためのギフトボックスなのかもしれない。
 
『そっと』と念押しされたということは、この中にもチョコレート細工とかが入ってるのかも。
 
そんな予測をするものの、なぜ、これだけまた別に渡されるのかと疑問に思う。
ドキドキとしながら、静かにオレンジ色の箱に両手を伸ばした。
 
まだ見ぬ中身を壊さぬよう、ゆっくりとふたを引き上げる。
ポン、と、ふたが完全に取れた感覚を右手に感じた後に、真上から箱の中を覗いた。

「え? 箱?」
 
見えたのは、チョコレートで作られた小箱。
次の瞬間、ふっと笑いを零してしまった。 

「なんか、マトリョーシカみたい」
「ああ。なるほど。それでもよかったかな」
「ふふ。じゃあ、これはどんな仕掛けが――」
 
神宮司さんの反応で、頭の中は、〝開けても開けても箱〟という図が思い浮かんでしまっていた私の目に、思わぬものが飛び込んできて言葉を失う。

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