ドルチェ セグレート
「これって……」
 
驚きのあまり、さっきまでの笑顔が消えて行く。
 
チョコレートの箱の中身は――指輪を象った、繊細なチョコ細工。
 
リングの部分は編み込みデザイン。
トップには光沢のあるオレンジ色のチョコレート。
それは、まるで宝石(マンダリンガーネット)を思わせるような輝き。
 
見れば見るほどに、本物のような仕上がりに息を呑んだ。
目を見開いたまま、手元の贈り物から神宮司さんへと視線を移す。

「まあまあの出来だろ? 付けることは出来ないモンだけど」
 
ニッと自信ありげに微笑む彼を、ただ私は信じられないという思いで見つめた。
 
こういうものを、いとも簡単に作ってしまうことにも驚かされたのは事実。
けれど、それよりも、これを敢えて別にして渡されたことに特別感を感じずにはいられなくて。

「これを……私に?」
 
茫然としながら聞いた私に、神宮司さんは眉を八の字に下げて笑う。

「キミ以外ありえないだろ」
「……うれしい。ありがとうございます。こんなの……勿体なくて、本当に食べられない」
 
箱をそっと、震える両手で包み込むようにして持ち上げる。
間近でもう一度、そのチョコ細工でできた指輪を見つめた。
 
すると、ポンッと頭に神宮司さんの手の重みを感じる。

「そのうち、食べられないやつを、ちゃんと贈るから」
 
そう言って、彼は恥ずかしそうに私から顔を背けた。
甘酸っぱい空気がこそばゆい。それをどうにかごまかすために、別の話題を模索する。

「あ! そういえば、あのフランスのチョコレートって、やっぱり美味しかったですか?」
 
宝石のように美しいチョコレートを見て、咄嗟に思い出した。
何気ない質問だったのに、神宮司さんは考えるように閉口し、少ししてから答える。
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