ドルチェ セグレート
「……本当は迷ったんだ。キミと一緒に食べる分も頼もうかどうか」
 
申し訳なさそうな様子に、失言だったと慌てて反省し、首を横に振った。

「あ、いえ! そういう意味で言ったわけじゃ……。それに、花音ちゃん経由ですし、たくさんは頼みづらいですよ。その気持ちだけでうれしいです」
「あー……いや。頼みづらかったわけじゃなくて」
 
奥歯に物が挟まるような言い方に、首を傾げる。
私は、なにか困らせるようなことでも口走ってしまったのかも、と動揺した。
 
視線を落ち着きなく彷徨わせながら、なにを言おうかと困惑する。
けれど、理由が明確じゃないだけに、どう切り出せばいいのかわからない。

早々に混乱しかけたとき、ぱちっと目が合ってしまった。
 
険しいような、むず痒いような……何とも言えない彼の表情に凍り固まる。
肩を窄めた私に、ボソッと小さく漏らした。

「いつか、一緒に食べに行きたいと思ったから」
 
思いもよらない理由を耳にし、目を丸くした。
 
まさかそんなふうに、当たり前のように神宮司さんの未来に私がいるなんて思ってもいなかったから。


いつかの神宮司さんの宣言通り、私の記憶は、いつかきっと幸せなものに上書きされていく。
この先、悲しかったり、辛かったりする思い出もできるだろう。

だけど、それでもきっと。
何回でも、彼は塗り替えてくれる。


「――あ。こっちのケーキ、すごく好きです」
「それ、俺もまだ食べてないんだ」

私はそんな彼に、真っ白で綺麗なクリームのように、幸せを何層にも重ねていってあげられる存在になりたい。

「味見させて」
 
こんな何気ないキスひとつも、あなたとなら、甘やかな記憶になっていく。
――たくさんのスイーツに囲まれて。






おわり

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