ドルチェ セグレート
「うぉあ! ……マジかよ……」

突然声を出したかと思えば、次は項垂れてがっかりと肩を落とす。
明らかに意気消沈してるのが目に見えて、つい慰めの言葉を掛けてあげたくなってしまう。

彼はショーケース越しに、アントルメの店員さんとなにやら言葉を交わし終える。
すると、今にも深い溜め息を吐きそうな雰囲気で、こちらに向かって歩いてきた。
 
余程ショックだったのだろうか。
私のことに気づきもしないで、落ち込んだ様子のまま俯きがちに素通りしていく。

慌てて後を追いかけると、さっきは気づかなかった彼の持ち物に目が行った。

あれって、この辺りのスイーツ店の袋じゃない……? 
それもひとつじゃない。三、四つ袋をぶら提げてる。
しかも、その中のひとつって……。

「〝パティシエール〟!」
 
つい、その店名を口走ってしまうと、ハッとして口を手で覆った。

「え?」

けれど、私の声は〝可愛げのない〟大きさだったために、彼は驚嘆の声を漏らしてこちらを振り向いてしまった。

「あ……。その、持ってる袋……今月オープンしたばかりの、シュークリーム屋さんだなぁ……と」
「そうだけど……。ああ、さっきの。そういえば、俺に何か用?」
「えっ。あの、その」

ヤバイ。私、完全に警戒されてる……。

冷や汗を流し、言葉を探すけれど、上手く誤解を解くような説明が思いつかない。

そもそも、誤解もなにもないくらいに怪しい行動しちゃったわけで。
ほぼ面識もないに等しい女が、声を掛けるだけじゃなく、ジャケット掴んだりして。

さらには後を追ってまで話し掛けて、まるでストーカーじゃない!

時間を巻き戻せるものなら、つい、彼に手を伸ばしてしまう直前まで戻りたい。

恥ずかしいのと気まずいので、手に汗を握り、顔を赤くしてしまう。
でも、次の瞬間、グッとさらに手の力を込め、思い切って顔を上げた。

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