ドルチェ セグレート
「ガトー・オ・ショコラッ……!」
「……ガトー?」
「はい! すごくっ……好きです! ランコントゥルのっ!」

この間から、ずっと気になるランコントゥルのパティシエの彼に、偶然とはいえ再会できた。
この状況に興奮気味の私は、なにを差し置いてもまず、伝えたい思いはそれだった。

まさか、こんなふうに会えるなんて! 
ランコントゥルも開店してる時間なはずなのにどうしたんだろう? 休暇?

ドキドキと早鐘を打つ心臓で、彼を仰ぎ見る。

「あ……もしかして、お客さん? それはどうも。光栄だな」

硬い表情だったのが、少し照れたような顔になる。
その表情の変化を目の当たりにして、得も言われぬ思いに駆られた。

ああ。そういえば、お店にケーキを買いに行ったとき、今の笑顔に似たような微笑みを向けられたんだった。
外見が男らしいタイプの彼だから、余計にそういう不意な笑顔は印象に強く残る。

「はい。つい最近お伺いして。あの、やっぱり好きなんですか……? スイーツ……」

窺うように、チラッと右手に提げている袋に視線をやり、恐る恐る口にした。

もしかしたら、『そんなこと触れるな』って思われることかもしれない。

頭の隅でそう掠めながらも、好奇心が勝ってしまった。

まして、オープンしたばかりのシュークリームのお店も含まれていたなら、スイーツ好きの私は興味津々になってしまうというもので……。

私の尻つぼみになった言葉を聞き終えた彼は、軽く頭を掻きながら言う。

「あー……職業柄ってとこかな? 嫌いじゃないけど……」
「あぁっ!」

そのとき、不意に記憶が蘇る。
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