ドルチェ セグレート
突然声をあげ、指をさしてしまった私を、彼は、びっくりして大きくさせた瞳に映し出す。

「な、なに?」

若干、引き気味で驚かれてるのが目に見えてわかる。
だけど、それ以上にこの靄が晴れた感動を抑えきれずに言葉を繋ぐ。

「【ange(アンジュ)】のブラウニーの試食してるときに見たことがあったんだ!」

勢い任せに口走ると、固まったままの彼を見上げ、肩を窄めた。

「あっ。す、すみません。その……私、この間から、あなたをどこかで見たことある気がしていて。それが、アンジュだったんだって今思い出したんです」

ぼそぼそと説明を続けるも、彼はしんとして口を噤んだままなにも発さない。

「ご、ごめんなさい。偶然とはいえ、見られてたとか……いい気はしないですよね」

乾いた笑いと共に言い、さらに俯いた。
数秒後、フッという微かな笑い声が聞こえる。

顔を上げると、眉を下げた柔らかな顔が目に飛び込んできた。
脇道に逸らされていた目が私を見つめ、薄い唇が開く。 

「……いや。あそこのブラウニーは美味かったな。食べた?」
「え? あ、はい! 試食で美味しくて、すぐ買っちゃいました」
「パティシエールにアンジュのブラウニー。それと、ウチのガトーね……」
「はい?」

彼は拳を作った手を口元に添えて、楽しそうに言葉を紡ぐ。

私はなにを言われるのかが全く予想できなくて、心臓をバクバクと鳴らしながら窺うように聞き返した。
すると、切れ長の瞳が私を捕え、輝きを増した。


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