ドルチェ セグレート
***
「え? それで、別れちゃったんですかぁ?」
長い睫毛に囲まれた大きな黒目を向け、志穂ちゃんが躊躇いなく突っ込んでくる。
自分より若くて可愛い部下にストレートにそう言われて、全く傷ついてないわけじゃない。
でも、昨日彼氏と別れたのは事実だし、年上で上司の私がそんなことでいつまでもくよくよしてる姿なんてカッコ悪くて見せらんないし。
「志穂!」
「あー。いーのいーの。事実だから……」
私の心情を気遣って、沙月ちゃんが志穂ちゃんの名を口にする。
私は苦笑いを浮かべ、あえて軽く流すように言いながら、売上報告を作成する。
「でも、ウケる~。今の話、本当なんですか? 河村さんより、二次元のカノジョを優先したって話!」
「ねぇ~。嘘みたいな本当の話なんだよねぇー。あははー」
商品整理の手を止めたまま、グサグサと容赦ない攻撃をしてくる志穂ちゃんに、私は乾いた笑いと棒読みの反応しか返せない。
その私の反応に、全く動じず「キャハハ」と悪気なく笑い転ぶ志穂ちゃんと、ハラハラとした目を交互に向ける沙月ちゃん。
「なんか……すみません。河村さん」
レジ横のパソコンに向かう私の横で、入荷商品の整理をしていた沙月ちゃんがひとことそう言った。
彼女自身、自分が謝罪するのも違うとはわかっていても、この場に耐えられなくてそう口にしてしまったんだろう。
なんとなくそう沙月ちゃんの気持ちを汲み取って、私はヘラッと笑顔を浮かべて右手を軽くオバサンのように上下に振った。
「大丈夫。こんな話、笑ってもらわなきゃ、逆にやってられないよ」
「……たまに、注意するんですけど。志穂にはどうにも伝わってないみたいで」
「ああ、私に関しては気にしないで。慣れたし、大丈夫だから」
……まぁ、本当は傷抉られてるけどね。
カチッとクリックして、本社に無事にメールを送信し終えたところで「ふぅ」とひと息吐く。
「ふたりとも、きりのいいところで今日はもう上がってね」
閉店作業中のふたりにそう指示を出し、自分も早く帰るべく残りの仕事を再開した。