ドルチェ セグレート
やり場のない手を伸ばしたまま、びくびくと彼の返答を待つ。
視線を足元で泳がせていると、すっと手にしていた重みがなくなった。
軽くなった自分の腕を辿るようにして、そっと視線を戻すと、彼が困ったように笑って言った。
「いくらだっけ? そのぶん、お金払うから」
「や! いいです! 本当に!」
両手をぶんぶんと横に振り、顔を背けて頑なに遠慮する。
彼は、「ふぅ」とひとつ息を吐き、なにかを思いついたように切り出した。
「――じゃあ」
横目で再び彼を見ると、ポケットから小さな手帳とペンを出してなにやら手早くメモをしてる。
茫然とその様を見つめていると、そのメモをピッと破ったものを渡された。
それを両手で受け取り見てみると、連絡先と名前が走り書きされている。
このメモの真意はなんだろうと見上げると、ニッと口角を上げた彼が開口した。
「今度来てくれるとき、必ずお礼するから。嫌じゃなければ連絡して」
そう一方的に言い終えると、彼は忙しなく「じゃあ」と片手を爽やかに上げて立ち去って行った。
「あ、今日は火曜日だ……」
デバ地下に取り残された私は、通路の真ん中でひとり呟く。
いまさら思い出した。ランコントゥルは、火曜日が定休日のはず。
彼は、定休日だからこの時間にここにいたんだ。
でも、休日なのに、仕事みたいなことをしてるんだなぁ。そして、なんだか忙しそう。
すでに姿が見えないけれど、彼が去って行った方向をぼんやりと見つめてそう思う。
――【神宮司慎吾(じんぐうじしんご)】さん。
携帯番号の下に掛かれてる名前を、心の中で読み上げる。
まだ信じられなくて、ふわふわとした気持ちで立ち尽くしていたけれど、この手の中にあるメモが事実だと証明してくれてる。
あのパティシエの彼……〝神宮司さん〟に会えて、しかも話も出来た。
まるでどこかの芸能人に遭遇したかのような高揚感で、私はデパートを後にした。
視線を足元で泳がせていると、すっと手にしていた重みがなくなった。
軽くなった自分の腕を辿るようにして、そっと視線を戻すと、彼が困ったように笑って言った。
「いくらだっけ? そのぶん、お金払うから」
「や! いいです! 本当に!」
両手をぶんぶんと横に振り、顔を背けて頑なに遠慮する。
彼は、「ふぅ」とひとつ息を吐き、なにかを思いついたように切り出した。
「――じゃあ」
横目で再び彼を見ると、ポケットから小さな手帳とペンを出してなにやら手早くメモをしてる。
茫然とその様を見つめていると、そのメモをピッと破ったものを渡された。
それを両手で受け取り見てみると、連絡先と名前が走り書きされている。
このメモの真意はなんだろうと見上げると、ニッと口角を上げた彼が開口した。
「今度来てくれるとき、必ずお礼するから。嫌じゃなければ連絡して」
そう一方的に言い終えると、彼は忙しなく「じゃあ」と片手を爽やかに上げて立ち去って行った。
「あ、今日は火曜日だ……」
デバ地下に取り残された私は、通路の真ん中でひとり呟く。
いまさら思い出した。ランコントゥルは、火曜日が定休日のはず。
彼は、定休日だからこの時間にここにいたんだ。
でも、休日なのに、仕事みたいなことをしてるんだなぁ。そして、なんだか忙しそう。
すでに姿が見えないけれど、彼が去って行った方向をぼんやりと見つめてそう思う。
――【神宮司慎吾(じんぐうじしんご)】さん。
携帯番号の下に掛かれてる名前を、心の中で読み上げる。
まだ信じられなくて、ふわふわとした気持ちで立ち尽くしていたけれど、この手の中にあるメモが事実だと証明してくれてる。
あのパティシエの彼……〝神宮司さん〟に会えて、しかも話も出来た。
まるでどこかの芸能人に遭遇したかのような高揚感で、私はデパートを後にした。