ドルチェ セグレート
「お待たせしました。河村です」
『あ、オレ』
「どちらの“オレ”様でしょうか?」
『いいねー。その相変わらずの態度。クセになる』
「……Mですね」

電話の相手は一応、私の上司とも言う立場の地区統括マネージャーだ。
歳は二十九の諏訪仁成(すわひとなり)という男。

バイトだった頃は電話でちょっと声を聞くくらいだったけど、社員になり、本社に出向くことが増えてから顔も合わせるようになった。

私が店長になったときには、お互いに上司と部下というような垣根を越えるくらいに話せる相手になっていたという感じ。

性格はお調子者。だから、明るくて気さくで、ノリがいい。
そんな諏訪マネとは、波長が合うというか、気楽に話せる、そんな間柄。

『オレはときにMであり、Sにもなれる……』
「くだらないことはもういいんで。なにか用件があるんですよね?」
『はいはい。この前の新商品案、お前が提出してた中からいくつか選ばれてたぞ』
「えっ!本当ですか!?」
『オレは女子にはウソつかない主義だ』
「やった!」

諏訪マネの言葉を聞き流し、むしろ語尾に被せ気味で即答する。

既に取引してるメーカーから、新規開拓メーカーまで、ひと通り気になるところのカタログをかき集めた。
それから、さらに商品を厳選して本社に提示したのだけど。

『近々FAXするから。個数とか改めて出して返信して。あと、売り場も作っといてな。〝売れる〟ディスプレイで』
「了解です」

上機嫌で返事をして、子機を戻す。

自分がいいなと思った商品を扱えるときには、いつもテンションが上がる。
さらにはそれをどうディスプレイしようか、なんて考えるときが一番ワクワクするかもしれない。

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