ドルチェ セグレート
レジに並んでいたお客さんをさばき終えた沙月ちゃんが、突然声を掛けてきて肩を上げた。
「あの子、〝天然〟じゃないですよ、絶対。ちょっと距離取らなきゃ、あの可愛い笑顔でなにされるか」
「えっ。いや、でも、店長の私に対してなにするってこともないでしょ」
「いや~、わかりませんよ」
渋い顔で小さく首を横に振る沙月ちゃんを見て、憂鬱な気持ちに拍車がかかる。
彼女たちは同い年で、この店に勤め始めたのもほぼ同じ時期。いわゆる同期みたいなものだ。
だから、私よりも普段から会話もしてるだろうし、もっと志穂ちゃんの素に近いのも沙月ちゃんだと思う。
その沙月ちゃんが、真顔でそんなことをいうのだから、冗談ではないんだろう。
え? でも、『なにされるか』って、具体的になにされるんだろう。
……想像できないけど、だからこそなんだかすごく怖くなってきた。
ブルッと軽く身震いさせ、志穂ちゃんの姿が見えなくなった売り場に一度目を向け、そそくさとバックヤードに戻った。
食べかけのクッキーがテーブルに置かれたのを見て、不意に思い出す。
昨日、偶然出会った神宮司さん。
今日、ランコントゥルに行くってことは、昨日の今日でまた会うってことだ。
その事実に気づくと、どこかで喜んでいるような気持になっている自分がいた。
でも、昨日の今日だよ? なんか、わざとらしく思われない?
手帳に挟み込んだ神宮司さんから貰ったメモを取り出し、複雑な思いになる。
昨日の出会い方も、私が突然彼を捕まえて追いかけて話しかけたっていう、いわば強行的接触だったんだし。
この流れで、まさか翌日『来ちゃいました』とかって、なんかやっぱり気まずくない?
私、危険人物まっしぐらじゃん!
メモに視線を落としたまま、そんな結論に達する。
――『連絡して』
そう言われたことも思い出したけど、到底連絡できる勇気なんか出てこなかった。
「あの子、〝天然〟じゃないですよ、絶対。ちょっと距離取らなきゃ、あの可愛い笑顔でなにされるか」
「えっ。いや、でも、店長の私に対してなにするってこともないでしょ」
「いや~、わかりませんよ」
渋い顔で小さく首を横に振る沙月ちゃんを見て、憂鬱な気持ちに拍車がかかる。
彼女たちは同い年で、この店に勤め始めたのもほぼ同じ時期。いわゆる同期みたいなものだ。
だから、私よりも普段から会話もしてるだろうし、もっと志穂ちゃんの素に近いのも沙月ちゃんだと思う。
その沙月ちゃんが、真顔でそんなことをいうのだから、冗談ではないんだろう。
え? でも、『なにされるか』って、具体的になにされるんだろう。
……想像できないけど、だからこそなんだかすごく怖くなってきた。
ブルッと軽く身震いさせ、志穂ちゃんの姿が見えなくなった売り場に一度目を向け、そそくさとバックヤードに戻った。
食べかけのクッキーがテーブルに置かれたのを見て、不意に思い出す。
昨日、偶然出会った神宮司さん。
今日、ランコントゥルに行くってことは、昨日の今日でまた会うってことだ。
その事実に気づくと、どこかで喜んでいるような気持になっている自分がいた。
でも、昨日の今日だよ? なんか、わざとらしく思われない?
手帳に挟み込んだ神宮司さんから貰ったメモを取り出し、複雑な思いになる。
昨日の出会い方も、私が突然彼を捕まえて追いかけて話しかけたっていう、いわば強行的接触だったんだし。
この流れで、まさか翌日『来ちゃいました』とかって、なんかやっぱり気まずくない?
私、危険人物まっしぐらじゃん!
メモに視線を落としたまま、そんな結論に達する。
――『連絡して』
そう言われたことも思い出したけど、到底連絡できる勇気なんか出てこなかった。