ドルチェ セグレート
「じゃ、行きましょうかー!」

通しで仕事した後とは思えないほどの威勢のよさで、志穂ちゃんが一歩先に足を踏み出した。

ウチの閉店時間は午後九時。ランコントゥルの閉店時間は午後十時。
閉店作業のことを考えると、本当にギリギリの時間だ。

「志穂ちゃん、こっち。急がないと閉まっちゃう」

私の自宅からだと遠いランコントゥルだけど、職場からだと距離はさほど遠くはない。
それでも安心できる時間ではないから、志穂ちゃんを急かして先導する。

「待ってくださーい。今日、ヒールが」
「だめ。次の地下鉄に乗れなきゃ、本当に間に合わないよ」

ローヒールの私は、大股でどんどんと先を急ぐ。
ただでさえ小柄な志穂ちゃんは、懸命に私の歩幅に付いてきていた。

別に意地悪したい思いで速足で歩いているわけじゃないけど、歩きにくそうにしながらも付いてきた志穂ちゃんにちょっと見直したりして。

ちらっと後方をみて、少し待ってあげる。
腕時計で時間を確認しながらそれを繰り返し、無事に予定通りの地下鉄に乗り込むことが出来た。

ランコントゥルは、地下鉄の駅から徒歩五分ほど。

午後九時五十分になろうかという頃に、ギリギリランコントゥルに辿り着くことが出来た。

「わー! 可愛い! オシャレなお店ですね!」
「うん。私もそう思う」

外観を見るなり、志穂ちゃんの口から零れ出た言葉に、まるで自分が褒められたように嬉しくなる。

ここまで、自分が先を歩いていた。

でも、やっぱり神宮司さんに会いづらい気がした私は、店先でピタッと足を止めたまま。
すると、志穂ちゃんが私を通り越して、ランコントゥルの扉に手を掛けた。
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