ドルチェ セグレート
「河村さん! 早く入りましょうよー」
カラン、と小気味のいいドアチャイムを鳴らし、私を待つことなく志穂ちゃんが先に店へと吸い込まれていった。
完全に閉まった扉を見て、意を決するように足を踏み出す。
彼――神宮司さんはパティシエのはずだし、この間来た時も、初めは奥で仕事してたみたいだった。
なら、今日ももしかして裏で作業してるかもしれない。
そうしたら、顔を合わさずに済むかもしれない。
都合のいい考えだけをするようにして、グッと手に力を入れて扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
迎え入れてくれるその声は、この前のように落ち着いた声ではなかった。
ショーケースの奥に立つ店員に目を向けると、志穂ちゃんと同じくらい小柄で大人しそうな女の子がいた。
「あんまり種類がないですね~」
「し、志穂ちゃん」
「あ……申し訳ございません。この時間になると、どうしても売り切れが多く出てしまって……」
こちらがお客様であることは間違いないかもしれない。
けれど、志穂ちゃんが、あまりにサラッと不満のような言葉を店員の前で口にするから驚いた。
そんな私たちに嫌な顔をひつとも見せず、ただ申し訳なさそうに頭を下げる店員に心が痛んだ。
買いに来た先に、商品数が揃ってないことは事実。
でも、閉店間際だということあるし、それをわかってきてるわけだし。
なにより、同じ接客業なのだから、いくらなんでもそういう言葉を店頭で発されたことに憤慨してしまう。
「仕方ないよ。だって閉店十分前だもの。それに、このチーズケーキもすごく美味しかったよ!」
「私、チーズって苦手なんですよねぇ」
「えっ。あ、そうなんだ……」
うまく話を持って行こうとした矢先、ぽっきりと心を折られる言葉を返される。
私たちの会話が聞こえていたであろう店員の女の子も、気まずい顔をするだけだ。
「いらっしゃいませ。あ、お客様、この間もいらっしゃってましたよね? 再来店、ありがとうございます。うれしいです」
そこに、空気を一変させる人が姿を現す。
カラン、と小気味のいいドアチャイムを鳴らし、私を待つことなく志穂ちゃんが先に店へと吸い込まれていった。
完全に閉まった扉を見て、意を決するように足を踏み出す。
彼――神宮司さんはパティシエのはずだし、この間来た時も、初めは奥で仕事してたみたいだった。
なら、今日ももしかして裏で作業してるかもしれない。
そうしたら、顔を合わさずに済むかもしれない。
都合のいい考えだけをするようにして、グッと手に力を入れて扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
迎え入れてくれるその声は、この前のように落ち着いた声ではなかった。
ショーケースの奥に立つ店員に目を向けると、志穂ちゃんと同じくらい小柄で大人しそうな女の子がいた。
「あんまり種類がないですね~」
「し、志穂ちゃん」
「あ……申し訳ございません。この時間になると、どうしても売り切れが多く出てしまって……」
こちらがお客様であることは間違いないかもしれない。
けれど、志穂ちゃんが、あまりにサラッと不満のような言葉を店員の前で口にするから驚いた。
そんな私たちに嫌な顔をひつとも見せず、ただ申し訳なさそうに頭を下げる店員に心が痛んだ。
買いに来た先に、商品数が揃ってないことは事実。
でも、閉店間際だということあるし、それをわかってきてるわけだし。
なにより、同じ接客業なのだから、いくらなんでもそういう言葉を店頭で発されたことに憤慨してしまう。
「仕方ないよ。だって閉店十分前だもの。それに、このチーズケーキもすごく美味しかったよ!」
「私、チーズって苦手なんですよねぇ」
「えっ。あ、そうなんだ……」
うまく話を持って行こうとした矢先、ぽっきりと心を折られる言葉を返される。
私たちの会話が聞こえていたであろう店員の女の子も、気まずい顔をするだけだ。
「いらっしゃいませ。あ、お客様、この間もいらっしゃってましたよね? 再来店、ありがとうございます。うれしいです」
そこに、空気を一変させる人が姿を現す。