ドルチェ セグレート
奥から出てきて私を見るなりそう言ってくれたのは、丈の長い白いコック帽をかぶったイケメンパティシエの彼。
ニコッと白い歯を見せて微笑まれると、やっぱり頬が熱くなる。

「あ、いえ。こちらこそ……美味しくいただいてます」

ガバッとお辞儀をして言うと、彼は目を丸くさせたあとに屈託なく笑った。

「それならよかった。オレたちは、『美味しい』って言ってもらうのと、何度も足を運んでもらえることが一番うれしいから」

彼の言うことは同感出来る。

ウチのお店は食べ物を前面に扱ってるわけではないから、お客様に『美味しい』と言われることはない。
だけど、何度も来店してもらえることは、やっぱりすごくうれしい。

彼はそういう感情を心から純粋に感じて言ったのだと、なにか通ずるものがあったのかそう素直に思った。

同時に、〝イケメンパティシエ〟と多々取り上げられている彼だけれど、そういうことで勝負しているわけじゃなく、真剣にスイーツと向き合っているんだろうと感じた。

「すみませ~ん! この中だと、どれが一番オススメですか?」

内面からも滲み出ている輝きなのだと、彼を見つめていたところに、ズイと前に出てきたのが志穂ちゃんだ。

女の子の店員には目もくれず。
今、出てきたお目当てのイケメンパティシエにロックオンしたようだ。

志穂ちゃんがパティシエの彼に接客してもらってる間、やれやれといった気持ちでその姿を見つめる。

わかりやすいなぁ。あの女の子だって、彼目的で来た事に気づかれてるんじゃないかな? 
そうしたら、もしかして私も同じ意図で来てると思われてる?

それは敵わない!と軽く頭を振り、私は私で店内の商品をじっくり見てみることにした。
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