ドルチェ セグレート
ケーキは志穂ちゃんが見てるし、焼き菓子でも見てみよう。

奥の壁側に棚が設置してあって、そこに並ぶ焼き菓子を中腰で眺める。
マフィンやマドレーヌ、パウンドケーキやクッキーが可愛らしいサイズで並べられていた。

このマドレーヌ、しっとりしてそうで美味しそう。
クッキーも種類はたくさんではないけど、リーズナブルで手に取りやすい。
それに、パッケージがシンプルだけど可愛い。

筒状になった透明のケースに入ったクッキーをひとつ手に取る。
小さなリボンが上に付いていて、商品名のラベルが、手書きのような文字と素朴なイラストを使っていて温かい印象を受ける。

クッキーかぁ。絶対美味しいんだろうな。だってランコントゥルのだもの。
でも、今日クッキー食べたばっかりだし……せっかくだから、違うものの方がいいかな? 
とはいえ、このチョコチップクッキーも捨てがたい。

例によってまたひとり、脳内で悩み始めたところ、横から声を掛けられる。

「あれ。キミ、昨日の」

その声は、さっき話をしていたイケメンパティシエよりもやや低く、落ち着いた声色だ。
そして、その声に聞き覚えのある私は、弾かれたように顔を上げた。

「あっ……! あの、どうもすみません、その節は……」

油断していたところに、いつの間にか店頭に出て来ていた神宮司さんに声を掛けられ、しどろもどろと返答する。
明らかに怪しいやりとりに、一瞬、店内全員が私と神宮司さんを見た。

「来てたんだ」

ショーケースを挟んで言われると、素直に頷けない自分がいた。

ここに来たことは紛れもない事実で、その理由も部下に頼まれてっていう正当なもの。
だけど、神宮司さんに『連絡して』と言われてた手前、気まずい気持ちになってしまう。

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