ドルチェ セグレート
クッキーを手にしたまま、視線を泳がせていると、イケメンパティシエの彼が会話に入ってきてくれた。

「慎吾、知り合い?」
「んー? まぁ、そんなとこ」

袖を少し捲った腕をショーケースの上に付いて寄りかかった神宮司さんは、迷うことなくそう答えた。

「へぇ。こんな可愛い子と?」

か、可愛い?!

信じられない単語を耳にして、一気に顔が赤くなる。

「……遥は本当に……そういうこと、臆面もなく言うよな」

神宮司さんが言う通り、実際口にしたはずの『遥』と呼ばれた彼のほうは全く動じてない。
それを聞いてた私や神宮司さんの方が、照れと恥ずかしい気持ちになっていたようだ。

「あの! 注文いいですか?」

そこへ、割って入るように志穂ちゃんが口を開いた。
女の子の店員がパッと反射的に動くと、遥さんは私に一度笑顔を向けて行ってしまった。

神宮司さんはまだその場に残っていて、目のやり場に困った私は手元のクッキーに視線を落とす。

「それ。もうひとつ同じの取ってくれる? で、ちょっと貸して」
「え? は、はい」

戸惑いながらも、神宮司さんに指示された通り、すぐにクッキーをふたつ差し出した。

彼の指先がクッキーのパッケージに触れる瞬間、ほんの少しだけ、私の手にも掠る程度に触れていく。
私の手から受け取る彼の手はやっぱり大きく、指先までのラインがとても綺麗で目を奪われた。

ドクドクと鳴る心音に気づかれぬよう、平静を装いつつ話しかける。

「オシャレなパッケージですよね。お店もそうだし、すごく好きで……す」

サラッと最後まで言っちゃえば、なんてことなかったのに。
変に『好きです』って単語を意識しすぎちゃったよ!

変な汗をかきながら、「はは」っと乾いた笑いを漏らす。

「そう? じゃあ、中身も好きって言ってもらえたらいいけど」

軽く目を伏せながら薄らと笑みを湛え、そう言って小さな紙袋をふたつ私にくれた。
きょとんとして神宮司さんを見上げると、「ん」と短い言葉でもう一度、私にその袋を受け取るように促す。
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