ドルチェ セグレート

「諏訪マネージャー！　日曜なのに、何してるんですか？！」

グレー系のスーツに小紋柄のスリムタイ。
照明が当たって、薄らと茶色に見える髪色は地毛だろう。

その髪色と同じくやや茶色がかった目と目が合い、開口一番に思わず名前を口にしてしまった。

基本、現場の人間じゃなければ休日は暦通りのはず。
そんないるはずのない彼が、日曜の開店前に突然現れて吃驚する。

「休日出勤。その前に、ちょっと立ち寄ってみただけ」
　
その言葉は、スーツ姿を見れば嘘ではないと一目瞭然。
未だに私が目を白黒させていると、諏訪さんはダンボールを覗き込むように近づいてきた。

「お。新商品。今日から並べるの？」
「昨日は予想外に忙しくて、今朝に持ち越しになっちゃって……って、さっきのはなんですか！　失礼な！」
　
諏訪さんの突然の登場と共に放たれた言葉を思い出し、口を尖らせて抗議する。
彼はそんな私を面白がって、カウンターに両肘をつけて身を乗り出して言う。

「初めて本社で会ったときのことは、忘れたくても忘れられないからなぁ」
　
ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべる諏訪さんを口止めすべく、手にしていた商品をダンボールに放り戻す。

「ちょっ、それは……！」
「えー。なんですか？　気になります～」
　
その間ずっと動かずに話を聞いていた志穂ちゃんが、ここぞとばかりに会話に割り込み、話を長引かせようとする。
　
いやいや、そこは食いつかなくてもいいとこだから！　察して！　
お願いだから、空気を読んでー！

「一本に縛ってる髪は派手に跳ねててさ。さらには、服が後ろ前だったっていう……」
「だーっ！　人の恥を勝手に拡散しないでっ」
　
大きな声で無理矢理話を終了させるも、ほぼ情報は伝わってしまっただろう。
志穂ちゃんが生き生きとした瞳で、「ウケる～」なんて両手叩いているのを横目で見て溜め息を吐く。
恨めしい目を諏訪さんに向けると、ヘラッと笑い返されるだけ。