ドルチェ セグレート

なんだろ。そのとき、私なにしたんだっけ? 
全然思い出せない……。

「諏訪マネージャーって、河村さんが好きなんじゃないですか?」
 
そう言う志穂ちゃんは、茶化すというより、少し面白くない様子。
大方、結果的に私がもてはやされた形で話が終わってしまったことが原因なんだろう。

「はぁ? 天地がひっくり返ってもナイ話でしょ」
 
いまさら諏訪さんとなにかあるだなんて、想像もできないし。

淡々と答え終えたところに、さっきまでとは違う、ビジネスモードの顔をした諏訪さんが戻ってくる。

「悪い。時間なくなった。新商品、頑張って売上に繋げろよ」
 
上着のボタンを留めて、片手を軽く上げて颯爽と去っていく。
その姿を見送って、ボソッと呟いた。

「……本当、一体何しに来たんだっての」
 
手を休め、ぼんやりしながら今日の一大イベントを思い出す。
同時に、さっき蒸し返された過去の恥も思い出し、さりげなく今着ている服が後ろ前じゃないか確認した。
 
だ、大丈夫だ……。靴も左右合ってるし。

過去、急いで玄関を出た矢先、左右で別の靴を履いていることがあったのも思い出してチェックする。

あとは仕事後に、メイクをちょこっと直す程度にしてから行こう。

真っ暗なパソコン画面に映る自分を見ては軽く頷き、仕事に戻った。
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