ドルチェ セグレート
「本当? そう言ってもらえたらうれしい。あとは結果に繋がればいいんだけど」

髪が崩れたって、ネイルが剥げたって、メイクが落ちたって。
その分の見返りがあるなら、私はまだやっていける。

いや、でも、今日は本当に身だしなみもちゃんと整えなきゃ。

「河村さん、髪ちょっと解けかけてますね」
「あー……あとで直すよ」
「ちょっと見せてください」
 
カップを戻した沙月ちゃんが、スッと私の背後に回る。
背が高めの私。そんな私の髪を弄るのは難しいだろう、と遠慮しようとした。

「取れ掛けてたピンで止めなおしました。どうですか?」
 
沙月ちゃんがポケットからコンパクトミラーを取り出し、貸してくれる。
顔の角度を小刻みに変えてみてみると、何やらセンス良く毛束をねじって止めてくれていた。

「わ、ありがとう。器用だね」
「いいえ。自分の髪より人の髪の方がやりやすいだけですよ」
 
スッと距離を取る際に、沙月ちゃんから甘い香りが仄かに届く。

鏡を持ち歩いていたリ、手早く髪を直してくれたり。
こういうものが私に欠けてるところなんだよね。

時折、他の女の子を見てはそう反省するのだけど、なかなか簡単に身に付かないもので。

神宮司さんも、やっぱり女性らしい人の方がそりゃいいよね。
大体、仕事柄器用そうだし、もしかしたらスイーツだけじゃなく料理も得意だったりして。
 
無意識に彼を思い浮かべて想像する。
ハッと我に返った私は、沙月ちゃんに直してもらった髪が乱れぬように、静かに動いて閉店作業に就いた。

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