ドルチェ セグレート
「え! はい! や、いいえ? じゃなくって……え? な、なんて?」
 
私の心の声がダダ漏れで、その続きを言われてしまったのかと勘違いしてあたふたとする。
でも、神宮司さんの様子を窺うと、きょとんとした顔だったからそうではなかったのだと気づいて聞き返した。

「コーヒー好き?って聞いたんだけど」
「コ、コーヒーですか! はい、好きですけど!」
「ほんと。じゃ、近くにいいカフェあるからそこでいい? 俺、もう終わりだから着替えてくる。ちょっと待ってて」
 
ロングエプロンを翻し、長い足で颯爽と遠ざかっていく背中を見つめる。
 
……背中までカッコよく見えちゃう。
なんで? 背が高いから? 骨格? 制服のせい?
 
ドクドク鳴る心音は、気づかないフリが出来ないほどの大きさだ。
私は、すぅっと大きく息を吸い込んで、『落ち着け』と何度も自分に言い聞かせる。
 
このくらいで、なにをいちいち過敏になって……。
これじゃ、まるで本当に私が神宮司さんのこと気になってるみたいじゃない。
 
片手を胸に当てて、静かに目を閉じる。
 
でも、正直なところ、気になってるのは事実だし。
だとしたら、もしかしてこの感情の行き着く先って……。
 
落ち着き始めたはずの心が、またもや音を立て始める。

「余程、仕事熱心と見えるな」
「ひゃ!」
 
目を瞬かせて顔を上げると、私服に着替えた神宮司さんが横に立っていた。
神宮司さんの足音にも気づかないくらい、自分のことで精一杯だったようだ。

「じゃ、行こうか」
 
すれ違いざまに凛々しい切れ長の目をこちらに向け、私の前を歩き始めた。

広い背中を間近で見ながらついていく。
その後ろ姿に、さっきと違わずドキドキしてるということは、どうやら心拍数があがる理由は制服ではなかったらしい。

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