ドルチェ セグレート
店内は、カウンター席と、ボックス席が四つ。
そのうちの二席が窓際にあって、神宮司さんはそこを選んで腰を下ろした。

「えぇと、このお店の方とお知り合いなんですか?」
「知り合いっていうか、お客さん。ここに、うちの焼き菓子卸してるんだ」
「え! そうなんですか」
 
私の知る限りでは、ランコントゥルは二号店もないし、デパートでも期間限定店として出店したりもしてなかった。
だから、その答えはすごく意外で驚いた。
 
店同士も近いし、このカフェやあの男性店員の雰囲気はランコントゥルに通ずるものもある気がする。

だからかな? ここにお菓子を卸してる理由って。
 
チラチラとカフェ店内を観察していると、正面に座る神宮司さんが軽く目を伏せた。

「今日は突然誘ってごめん。しかも、こっちまで出てきてもらって悪かった」
 
心から申し訳なさそうに謝罪されると、逆にこっちも恐縮してしまう。

「あ、いえ。その……近いですから!」
 
咄嗟に気を遣って出てしまった嘘。
自宅からこの辺りは決して近くはない。

でも、ほら、職場とは近いし。完全な嘘ってことにはならないよね。

誰になにを言われたわけじゃないのに、頭でそう自分を肯定する。

「お待たせしました」
 
そこに、女性店員がトレーを片手に私たちの元へとやってきた。
テーブルに次々と置かれたものは、コーヒーとカフェラテとオムライスふたつ。
私の前に置かれたカフェラテは、いわゆるラテアートだった。

「うわ。飲むのが勿体ない……!」
 
そう思わず零してしまうほど、バランスの取れた美しいハートがカップに描かれていた。

「ありがとうございます。けど、味の方も気合い入れてますので、どうぞ冷めないうちに。あ、オムライスはマスターからで、特別メニューだそうです」
「どうも」
 
女性店員の説明で神宮司さんがカウンターへ顔を向け、先程の男性――マスターにお礼を言った。

女性がペコッと頭を下げて離れて行く。
それを見つめながら、神宮司さんが話し始めた。
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