ドルチェ セグレート
思わず声を大にして反応してしまった。
閉店後の店内では、当然目立つ。カウンターからの視線が横顔に刺さるのを感じる。

「す、すみません。完全に予想外だったもので」
 
開業については詳しく知らないけど、だったらすごく若い方なんじゃないの?! 
だってどう見てもまだ二十代……。

「あぁ、そうか。遥だと思ってた?」
 
神宮司さんはオムライスを掬いながら、フッと小さく息を漏らすように笑って静かに言う。
一瞬だけ見せたその彼が、なぜだか淋しそうに感じた。

「違いますよ。単純に、神宮司さんって若いのにすごいなって」
 
ひとつ咳払いをして、声色を落ち着かせて否定した。
こういう場面で慌てて弁解すると、まるで嘘を隠したいみたいに思われそうで。
 
だけど、内心はドキドキ。すまし顔でハラハラしながら反応を待つ。

「……ふ。俺より年下に『若い』って言われるなんてね」
 
すると、顔を少し横に逸らした神宮司さんが眉を下げて笑った。
私はその笑顔に安堵すると、オムライスに手を伸ばした。

「いただきます。あ、美味しい~」
 
ぱくっとひと口頬張ったオムライスは、遅めのランチ以降なにも口にしていない胃に優しく広がった。
薄めの卵なのに、確かに柔らかくて中のライスと溶け合う。チキンライスの味も上品で、全く重くない。
 
今みたいに遅い時間でも、気にせずペロッと食べられちゃう味だ。
ついつい手が止まらなくなるオムライスに夢中になっていると、神宮司さんの視線に気づいて目を丸くさせる。

「え? なんですか?」
「いや。あんまり幸せそうに食べるからさ。いいね、そういうとこ」
 
静かに笑って言われたことに、初めはぽかんと呆けた顔をするだけ。
何度か頭の中で彼の声を反芻し、次第に照れが出てしまう。

「そんなふうに言われたの、初めてです。今まで鬱陶しがられてただけなので」
 
照れ隠しでパクパクとオムライスを食べ進め、平静を装って答えた。
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