ドルチェ セグレート
「鬱陶しい? そんなふうに感じるヤツなんているんだ」
「あ、その、友達とかじゃなくって……」
 
神宮司さんが、少し目を大きくさせて私を見る。
慌てて口走った言葉の先に、思わず躊躇してしまった。
 
友達じゃないって言っちゃったら、もうあとはわかるよね……。

「元彼、なんですけどね」
 
特に隠す必要も、気まずい思いをするない。
神宮司さんとは恋人同士なわけでもないし、私なんて彼の中で〝対象外〟でしかないだろうから。
 
自虐的な思考に軽く笑いを零して、私は聞かれてもない話を続けた。

「つい最近別れたんです。その決定的理由が、私に色々とついていけないっていうことだったんですけどね」
 
神宮司さんを直視することは出来なくて、オムライスだけを見ながら苦笑する。

「こんな話、誰に話しても笑われるだけなんでしょうけど、三次元(私)よりも二次元(ゲーム)の彼女の方が癒されるって言われましたよ」
 
それまで、いろんな価値観の違いとか、すれ違いとかはもちろんあったけど。
結局、向こうから言われた最後の言葉はそういうものだった。
 
私が好きなスイーツの話とかも、相手にとってはどうでもよくて、最後には苦痛でしかなかったのかもしれない。だから私との約束よりも、ゲームイベントを優先させたんだ。

「確かに、私にも非はあったとは思いますけどね。好きなもの目の前にしたら、つい夢中になりすぎちゃうところがあると思いますし」
 
のど元過ぎれば……ってやつじゃないけど、今ではそういう自分の至らなかった点も素直に認められる。
相手に言われたこととかも、そこまで引きずってはいない。
 
ただ、まだたまに、こんな感じで自己嫌悪に陥ったりもしちゃうけど。

「あは。いやでも、別れ話のきっかけが、お気に入りのキャラのイベントに行くとか言うくだらないものだったから。こんな話、笑っちゃいますよねぇ? 現に、この間の部下にも思い切り笑われて……」
 
涙が零れてしまうほど、傷ついたわけじゃない。
この程度の傷なら、笑い飛ばすのが一番早く忘れられるはずだ。
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