ドルチェ セグレート
シャワーを浴び終え、その足で冷蔵庫に向かう。取り出した箱をテーブルに置いて、中を覗き込んだ。

数秒眺めて考えたあとに、取り出したのは三角形のチーズケーキ。
綺麗なオレンジ色のそれを両手でそっと白いお皿に乗せる。

些細なことだけど、こういうときには度々自分の性格を再確認してしまう。

〝好物は後に食べる派〟な私。

いつも『今日は一番に食べようかな』と迷った挙句に結局、後の楽しみに取っておいてしまう。
そうして最終的に、自分の口に入らなかったこともしばしばだ。

まぁ、今はひとり暮らしだし、誰が来るわけでもないし。食べ損ねることはほとんどないだろうけど。

自虐的に小さく鼻で笑って、目下にあるチーズケーキのフィルムをそっと剥がす。
光沢のある表面には、可愛らしく飾り付けられた生クリーム。

生クリームからいこうか、それとも……。

それすらもいちいち迷う自分にハッとして、えい!と勢いよくチーズケーキの端をフォークで掬った。
チーズの濃い味が、一瞬で口いっぱいに広がる。

「美味しー……」

ああ。ついに独り言をいう歳になったのか、私。

フォークを咥えたまま、ボーッと宙を眺めてそんなことを思う。

いつの間にか、ひとりで何するにも抵抗なくなった。
ひとりで買い物したり、カフェに入ったり。自分のためだけにケーキ屋にだって平気で行けちゃうし。
もしかしたら、やったことないけど、ひとりカラオケとか回転寿司とかも行けちゃうかも。

あっという間に口内のスポンジが溶けてなくなって、チーズの風味が薄れていくのを遠くに感じる。
けれど、そのままぼんやりと考え事を続けた。

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