ドルチェ セグレート
どのくらい経っただろうか。
 
そう思って、神宮司さんからの受信時間を確認すると、すでに五分が経過していた。
 
私のことだ。タイミング逃したら、余計に返信できなくなりそう。
とにかく、せっかくなんだから早く返さなきゃ!
 
ようやく少し冷静な思考が戻って、返信文を作成し始める。

【お疲れ様です。毎日元気にやってます。神宮司さんこそ、お忙しそうなので無理しないでくださいね】
 
田舎から上京した後、親戚にでも送る手紙のような内容しか書けない。
そんな自分に愕然としつつ、それ以上考えても新しいものは降臨しないと悟って送信してしまう。
 
顔文字のひとつでも入れたらよかったかも、なんて後悔してると、手の中の携帯が長く振動した。
嘘でしょ?!と、手から携帯を滑り落としそうになりつつ、半ばパニック状態で電話に出る。

「えっ。あっ、もし、もし……?」
『急に悪い。今、大丈夫?』
「は、はい。家に帰ってる途中ですから」
『そっか。いや、電話した方が早ぇなって思って』
 
自慢じゃないけど、プライベートで電話ってほとんどしたことない。
友達も、家族ですらも今はほとんどメール。元彼はむしろ、電話嫌いだった。
電話と言えば、仕事上するくらいだ。

久々の電話の相手が神宮司さんだなんて、上手く話せる自信なんかない。

直立不動で肩に力を入れながら、携帯を耳に当てる。
メールと違って、考える時間がないから言葉を上手く選べない。
 
気の利いた会話も投げかけられずにいると、スピーカー越しに胸に響く低音が聞こえてくる。

『あ、さっきは俺の心配してくれてサンキュ。ところで、ウチの店来る予定ある?』
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