ドルチェ セグレート
ダダダダッとキーボードを軽快に叩く。

……いや、軽快というよりも豪快に、だ。
 
翌日の今日は寝不足。
本当は眠って考えることを休みたいのに、それも叶わないまま出社してきた。

少しでも暇な時間が出来ると、昨日の件で凹んでしまう。
出来ることは、一秒でも仕事に集中して、現実逃避することだけ。

「うわ……。河村さん、また一段と……」
「逞しいですよねー」
 
そこに、沙月ちゃんが恐る恐ると言った様子で声を掛けてきた。
沙月ちゃんの後ろから覗き込むように続いてきた志穂ちゃんは、相変わらずだったけど。

「と、いうか、『やる気』! やる気ありますね!」
 
そんな志穂ちゃんの失言を、沙月ちゃんはいつものように気遣ってフォローする。

「ご、ごめん。異様なオーラ放ってた……?」
 
ふたりの顔色を見て、ようやく自分の世界に行ってしまっていたことを察した。 
志穂ちゃんは、引き続きハキハキとした声で笑顔を見せる。

「異様っていうか、若干ひいちゃうくらいの空気が……んむ!」
「いえ! そんなことないですから! なんていうか、男の人顔負けなくらい頑張ってて、カッコイイっていいますか!」
 
笑顔でグサッと刺すことを言う志穂ちゃんを、ついに沙月ちゃんは実力行使に出た。
片腕を捕まえ、動きを拘束すると、もう片方の手で強引に口を塞ぐ。
志穂ちゃんは、突然口を覆われ、驚きながらも必死に抵抗していた。

「男前だよなぁ。でも、一歩間違えれば、ただのガサツになるから気をつけろよ」
 
ふたりの様子に狼狽していたところ、面白半分の声が割って入ってくる。
途中から、顔を見ずともその声の主がわかって溜め息を吐いた。

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