ドルチェ セグレート
マカロンみたいな女の子
私の朝は、目覚まし時計のピピピッというデジタル音から始まる。

「ん……?」
 
なのに、どういうわけか、今朝はその音の記憶がない。
 
寝ぼけたまま止めちゃったのかな? 今は何時だろう。
 
ベッドから、もぞもぞと辺りに手を伸ばして目覚まし時計を手に取った。
仕事の日の起床時間はだいたい六時半。

霞む目を擦って見た長針が、十を指してて一瞬で目が覚めた。

「うそっ!」
 
勢いよく掛け布団を跳ねのけ、時計を二度見する。
よくよく見ると、五時五十分。ホッと胸を撫で下ろし、改めて冷静になったとき――。

「……ひゃあああっ!」
 
自分のあらぬ姿に気が付いて、早朝にも関わらず素っ頓狂な声を上げてしまった。
一糸纏わずの身体に驚愕する。
 
ババッと掛け布団を拾い上げ、隠れるように潜り込む。
真っ暗な中蹲り、ドクドクと騒ぐ心臓を押さえた。
 
き、昨日……私、神宮司さんと……。
 
自分自身を抱きしめるように腕を交差させ、昨夜のことを思い出しては熱くなる。
悶絶しながらジタバタしたあとに、はた、と動きを止めた。
そして、そっと布団から顔を覗かせる。
 
神宮司さん、いない……?
 
きょろきょろと緊張しながら辺りを窺うけれど、人の気配がない。

掛け布団を羽織り、引き摺ったまま部屋を歩く。
昨日着ていたジャケットのポケットから携帯を取り出してみるけど、なんの変化も見られなかった。
 
メールのひとつもない現状に、昨日のことは夢だったのではないかと思っちゃう。
でも、今、自分は下着もつけてない状態だし……。
 
オロオロとしているときに、ふと、テーブルの上に目を向ける。
そこには、昨日私が確かに買った、マドレーヌの箱が置かれていた。

おもむろにテーブルにつくと、その箱にそっと手を伸ばし、包装を解いた。
 
この箱、この香り……やっぱり現実だ。
……ん?

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