ドルチェ セグレート
マドレーヌの箱の下から、一枚のメモが置かれていることに気づく。

見覚えのある罫線のメモ用紙。これ、神宮司さんが前に連絡先をくれたときと同じメモだ。

ひと折された紙をカサッと開く。

【ケーキ、冷蔵庫に入れさせてもらった。あと、鍵も玄関に置きっぱなしだったから、鍵かけてポストに入れておく。勝手にごめん】
 
前に貰った連絡先のときも思ったけど、神宮司さんって読みやすい字を書くなぁ。
 
メモを片手に、未だに布団を肩から掛けながら玄関へ向かう。
ポストに手を伸ばすと、確かに家の鍵が入っていた。
 
そのまま今度はキッチンへ。
冷蔵庫を開けると、昨日もらったケーキの箱。それと、食べ掛けだったチーズケーキまでも仕舞われていた。
 
それなりに自炊はするけど、充実した冷蔵庫の中身ではないと思う。
キッチンも汚れてはなかったとは思うけど、パティシエという仕事をしている彼の目にはどう映ったのかはわからない。
 
もう一度メモに視線を落とし、項垂れた。
 
神宮司さんって、やっぱりあんな繊細なスイーツを生み出す人だし、几帳面で私のことだらしないって思って帰ったかも……。
 
調理台に両手を乗せて、頭を垂れて深い溜め息を吐く。
 
ああ、次に会ったときはどんな顔して会えば……。というか、それよりも。
 
目下に映る自分の手の甲を見て、左手をそっと握った。

ベッドの中で、神宮司さんがずっと手を握ってくれた。
見た目通り大きい手だから、包まれる感覚に安心感を覚えた。

その温もりに、いつの間にか眠りについてしまったんだけど――。
 
次の瞬間、左手からパッと右手を離し、顔を真っ赤にする。
 
私の生活感を見られた心配もそうだけど、それよりも身体を重ねた事実の方が、どんな顔をしたらいいのかわからない。超難題だ。
 
だって、お互いに明確な気持ちを口にはしないままだったから……。

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