ドルチェ セグレート
今回の件は、特別問題。前向きどころか、超後ろ向き。
どうプラス思考に持って行こうとしたって、ちょっと無理がありすぎるような……。

「はぁ……」
 
仮に、本当に私が前向き思考だとして、だからといって、自分に自信があるとかそういう話はまた別問題。
どちらかというと、自分に自信なんてない方だ。
 
ダメだ。悪いことしか思い浮かばないし。
 
どんよりとした重いオーラを背負っていると、背後から声を掛けられる。

「今朝、河村さんが受けた電話での取り置きなんですけど」
「ああ。あのカードケースの?」
「はい。電話で言ってたものじゃないってことで、商品取り寄せになりました。発注お願いできますか?」
「えっ! うそ!」
 
今日の出来事だから、電話を受けたことはハッキリと覚えてる。
でも、確かにカードケースの種類はどう言っていたか、今ではうろ覚えだ。

「ごめんね……。伝票は? すぐに注文しておくから」
「お客さんもいい方だったので大丈夫でしたよ。でも、河村さんがこういうミス、珍しいですね?」
 
小首を傾げた志穂ちゃんに見つめられ、咄嗟に目を逸らしてしまう。
上に立つ者として、こんなミスや態度はいけないとわかっているけど、どうしてもだめだ。

「うん、気をつけなきゃ……」
 
すっかりと落ち込んでしまって、笑うことはおろか、顔を上げることも出来ない。
深い溜息を吐き、自己嫌悪に苛まれる。
 
そこに、この心境を全く無視したような、志穂ちゃんの華やかな声が耳に入ってきた。

「ところで、あれから慎吾さんとは会うことありました?」
「しっ……んごさん?」
 
まさか、ここでその名前が飛び出してくるとは予測もしてなくて、卒倒しそうになる。
懸命に平静を装った表情で立つけど、内心かなり混乱していた。

だけど、志穂ちゃんは構うことなく、しれっと声を潜めて人差し指を立てる。
< 79 / 150 >

この作品をシェア

pagetop