ドルチェ セグレート
「神宮司さんのことですよ。お店に行ったりしてないんですか?」
「いや……あの、ね。私――」
「あ。別に大丈夫ですよー。この前聞いておいてほしいって言っていたことは。なかなか簡単に聞ける内容じゃないですよね?」
 
自分の正直な気持ちを告白しなければ、と言いあぐねている間に、ガンガンと志穂ちゃんが言葉を重ねてくる。

「いや、というかね」
「でも! 余計に燃えますよねー。で、相談なんですけど! 明日、仕事終わってから一緒に行きましょう?」
 
結局、タイミングを与えられぬまま、またよからぬ方向へと話が流れ、困惑する。
満面の笑顔の志穂ちゃんの中で、私が『ノー』という答えは皆無なのかもしれない。

「で、でも、志穂ちゃん、もうひとりで行けるんじゃ……」
「私、この間ひとりで行ったばかりですし。ふたりなら、なんとなく行きやすいじゃないですか」
「いや、それは別に私じゃなくてもいいんじゃなくて……?」
「わかってないですね、河村さん。他の女子連れてっちゃったら、ライバル作るだけじゃないですかぁ」
 
ニッと口の端を吊り上げるように静かに微笑む彼女を、初めて心から『怖い』だなんて思ってしまった。
閉口した私に、ぴらっと紙を差し出し天使の微笑みを浮かべる。

「私、今日は早番なので、ぜひ明日。あ、これ、さっきの伝票です」
 
それは暗に、さっきの私のミスを処理しましたよ、ということを言っているようなものだ。
このタイミングでそれを出されると、強く出られない。
 
結局、上手く立ち回ることが出来ない私は、明日志穂ちゃんとランコントゥルへと行く羽目になってしまった。

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