ドルチェ セグレート
「こんにちは」
 
無理矢理上げた口角と、懸命に下げた目尻。
それを維持していると、すぐに神宮司さんがやってきた。

「あ、やっぱ表開けといて正解だな」
「え?」
「いや、普段は店休日だし鍵閉めてるんだ。でも今日はキミが来るから」
「あ……そう、だったんですね。ありがとうございます」
 
神宮司さんは薄ら笑ってカウンターから出てくると、今私が入ってきた扉の鍵を閉める。
その背中を見つめ、さらに心が蔭る。
 
私のためだけに……っていうことは、やっぱりさっきの彼女はここに来慣れてるんだ。
だから、裏口からも自由に出入りして……。

「ちょうど試作品出来たから。忌憚ない意見を聞かせて」
「あっ。は、はい」
 
神宮司さんの、ちょっとした仕事モードに思わず姿勢を正す。
ケーキの小箱を片手に、レジカウンターの奥に案内される。

そこは、おそらく休憩室。前にも神宮司さんや遥さんがその部屋に入って、着替えてきたから。
 
ドアを開けてくれて通された部屋は、四畳ほどの空間。
入ってすぐに座卓があり、左手にロッカーがある。
それらを見ると、やっぱりここは社員休憩室兼、更衣室なのだろう。

「今度、ちょっとしたコンテストが開催されるんだ。テーマは〝neuf〟――斬新さ」
「斬……新……?」
「そう。味でもいいし、発想でも見た目でも制作過程でも。なんでもアリ」
 
何気なく部屋を観察しているところに、神宮司さんに話しかけられて肩を上げた。
テーブルに箱を置き、小さな棚からお皿とフォークを用意しながら説明されたことに興味をそそられる。
 
神宮司さんは、ゆったりとした口調で静かに微笑み目を伏せた。
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