綺麗な薔薇には闇がある
けれど、踏み出した一歩は


今までのものとは違う気がした


否、〝気がした〟のではなく、本当に違っていた


何故なら私の足は


地を蹴る度に、彼に近付いていたから


彼に───陽優に、また触れることができる


驚きよりも何よりも


その思いが心を埋め尽くした



『陽優……陽優っ!』


伸ばした手が、もう少しで彼に届く


あと少し……


彼に触れるための最後の一歩を踏み出した刹那



『きゃっ……何!?』


下ろした足は地を蹴らず


身体が落ちていく感覚に襲われた



『っ陽優!!』


彼に視線を向ければ


哀しそうな笑顔を浮かべた彼の身体は


端から砂のようになっていき


やがて、どこかへ消え去ってしまった


『嫌っ、行かないで……』


必死に伸ばした手の先に


既に彼の姿は無く


虚しく空を切るだけだった
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