ストーカーは昼夜を問わない
こちとら社会人経験してんだから、大人の相手は大丈夫。
そんな考えが甘かったと知ったのは、件(くだん)の領主サマが教会兼孤児院にやってきた時だった。
「なんだ。この薄汚い場所は」
「...この地域で唯一の教会と孤児院でございます」
見るからに偉そうな金髪男はそう出し抜けにお婆ちゃんに言い放った。
お婆ちゃんは唇をかみしめながらも、自分より遥かに身分の高い領主の問を無視するわけにもいかない。
それでもしっかりと領主の目を見てそう言い切った。
「これが教会?はっ!」
男は近くにいた自分の部下を呼び寄せると、信じられない言葉を口にした。
「ここを更地にしてしまえ。俺の治める土地にこんなみすぼらしいものはいらぬ」
「領主様!それはあまりにも酷い..神々への冒涜です!」
「こんなみすぼらしい教会一つこの世から消えたところで神々は気にも留められぬだろうよ。...分かったなら下がれ!無礼者めがっ!」
ドンっとお婆ちゃんが突き飛ばされ、尻もちをついた。
元々腰があまり良くないお婆ちゃんはそのせいで立ち上がれずにいた。
「「シスター!」」
子供達のほとんどが地面に倒れたままのお婆ちゃんに駆け寄った。
残りの子達は過去に忌まわしい記憶があるのか、頭を抱えてブルブルと震えている。
それを見て、私の中の何かがフッと切れた。
「お、おい。リオ?」
カイン少年が突然雰囲気が変わった私を見て、恐る恐る肩に手をのせてきた。
「...なに?カイン」
「お前...い、いや、なんでもねぇ」
そう言うと、カインはキッと領主サマを睨みつけた。
「おい、てめぇ!領主サマだかなんだか知らないけどな!シスターに乱暴すんな!」
「なんだ?この俺に盾突こうってのか?面白い」
男は何かもごもごと小さく呟いている。
それが何なのか、私には分からなかった。
「最近新しく考え出した新技だったんだ。お前を実験台にしてやろう」
そう言うが早いか、男は何か光る玉を掌に集めだした。
これだから魔法がある世界は面倒だ。
そんなチートは与えられなかった私にできることは一つ。
カインの前に飛び出して、彼を守ることだけだった。