太陽と月の行進曲
勇樹の席にプリントを叩き付けるように置き、聖美は無言で教室を出ると、彼女を待っていてくれた奈々も振り返らずに廊下を走りだした。

「え。ちょっと聖美!?」

「ごめん」

ある程度のことは聖美は気にしない。

自分が鈍くさいのも知っている。
ちょっとくらいけなされても笑って流す。

ただ、無視されることだけは我慢できなかった。

保体の指定教室の視聴覚室ではなく、聖美はまったく逆の特別教室の方に走る。

屋上への階段を上りかけ、背後から突然、腕を掴まれた。

「待てって!! どうしたんだよ!」

勇樹の声に顔を上げ、目が合ってしまうとパッと視線をそらす。

「って、なんで泣いてんの!?」

「なんでもない」

驚いたような声に気がついたが、乱暴に腕を振りほどいて、そのまま階段を駆け上がり、屋上のドアに手をかけて開けようとした時。

今度は後ろから勢いよくドアを押さえられた。

静かな廊下に響いたその音に、聖美が身を竦める。

「なんかよく解んないけど。待てよ!」

「……手をどけて」

「駄目だって。なんで泣いてんだよ」

「だって……ちゃんと名前呼んでるのに無視するんだもん!」

涙目で振り返ると、勇樹は『あ~』と呻くように呟いて、それから諦めたように溜め息をついた。

「悪かったって。大人気なかったって」
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