太陽と月の行進曲
「なんか、木村君てよくわかんない!」

駄々をこねた子供のように聖美が叫ぶと、困ったように勇樹は頭をかく。

困っているのは聖美も同じだ。

勇樹のおかげで、今日の聖美は困りっぱなしでもある。

彼はしばらく拗ねたような聖美を眺めて、小さく笑って頷いた。

「うん。まぁ、考えてみればそうなんだよな」

「何が!」

「いいからいいから」

そう言って勇樹は彼女の腕を取ると、屋上のドアを開けて聖美を連れ出した。

「まぁ……座ろっか?」

屋上にあるベンチに指差して座らせる。

「えっと……だな」

聖美の隣に座りながら、勇樹はちょっと言いずらそうにしてから、苦笑しながら少しだけ顔を赤らめる。

「俺は、単に名前で呼んで欲しかっただけなんだ」

瞬きして、聖美は顔を上げた。

「なんで?」

「俺が名前で呼びたかったから!」

「なんで?」

「あ~…なんでって。そりゃお前。普通彼氏と彼女になったら、名前で呼びたくなるもんだろが」

聖美は唇をとがらせて、前を向く。

授業も始まったであろう時刻。寒空の屋上には誰もいない。

「それならそうと、言ってくれなきゃわかんない」

「うん。まぁ、お前って解りやすそうで難しいな?」

「そんなこと言われても困る」

「そうだよな?」

それきり勇樹は黙り込み、聖美も困ったように俯いた。
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