太陽と月の行進曲
しばらく沈黙が流れた後、勇樹は小さく声をあげた。

「昼間なのに、月なんて見えるんだな?」

「へ?」

聖美は目を丸くして勇樹を見ると、彼はニッコリと空を指差した。

勇樹の指先に、微かく白い雲の流れる青空、そこに白くて薄い真昼の月が見える。

「本当だ。見えるね」

「うん」

薄くスライスされた大根のようだと思いつつ、聖美は知らず知らずのうちに微笑んでいた。

「面白いね」

「珍しいよな?」

しばらく二人でぼんやりと空を眺め、聖美は照れくさそうに前髪をいじる。

「変なとこ、見せてごめんね」

「俺も大人気なかったし」

お互い顔を合わせて笑って、それから風に吹かれた髪を抑えながら聖美が勇樹を振り向いた。

「ちょっと寒いね」

「屋上だしな」

「授業。サボっちゃったね」

恐らく今頃、奈々はハラハラしていることだろう。けれど勇樹はまったく気にしていないようだった。

「どうせ女子はビデオ鑑賞だろ? いいっていいって」

「風邪ひいたら大変だし」

「あ。それは確かにそうだな」

勇樹は慌てて立ち上がり……だが、腕を組んで首を傾げる。

「俺なら、こういうとき保健室だけど。さすがに二人じゃなぁ」

「それは、無理だと思う」

同じクラスの生徒が同時に保健室に行くことはあるだろうが、それはあまり“よくあること”ではないだろう。

しかも、ふたりはとても元気だ。

「じゃ、いっそ、この後は全部サボろうぜ!」
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