太陽と月の行進曲
ポカンとすると、悪戯っ子のように勇樹は笑う。

「男子も美術室行ってっから平気でしょ」

そう言いつつも、グイグイと聖美の腕を取り歩き出した。

屋上からそっと階段を下りてきて、授業も始まり、シン、とした廊下に二人の足音が響く。

通り過ぎる教室からは、朗読する声や受け答えする生徒の声が聞こえた。

「なんか、いけないことしてるみたい」

「や。実際するつもりなんだけど」

「へ?」

「サボるのっていけない事じゃない?」

間違いなく“いけないこと”だろう。
聖美は納得して頷いた。

そして誰もいないガランとした教室に戻ると、お互いにこっそりとカバンとコートを取って、勇樹の誘導に従って裏庭に向かう。

「勇樹くんて、けっこうサボってたりする?」

「まぁ、そこそこだな」

にやっと笑った勇樹に、聖美もクスクス笑った。

それを眺めて、勇樹はひとりで納得したかのように頷く。

「うん。やっぱりお前、笑ってたほうがいいよ。いつもキョトンだもんなぁ」

「キョトン?」

「うん。なぁに?って感じ?」

「……うーん。よくわかんない」

困った顔をすると、声もなく勇気は笑い、通りがかった教師の姿に慌てて身を隠す。

「あぶね……生徒指導じゃん」

「見つかったら大変だったね」

それからふたりで裏庭に向かい、木々に隠れたフェンスの間からそっと抜け出して顔を合わせた。

「冒険に行くみたい」

勇樹に手を繋がれて、校舎を振り返りながら聖美は呟く。

「聖美にとっては冒険なんじゃねぇ?」

さらっと呼ばれた名前に、聖美は眉を上げた。

ついさっきまでの呼び方が“加藤”から“聖美”になっただけ。

ほんの少しの変化だが、そのほんの少しの変化に戸惑う。
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