太陽と月の行進曲
それから家について鍵を開けると、そっとドアを開けた瞬間に、父が書斎から出てくるところに出くわしてしまう。

まずい、と一瞬、聖美は思った。

「聖美? お前、どうしたんだこんな時間に?」

「うん」

「具合でも悪いのか? それともサボりか?」

「えーと……」

「サボりだな? 仕方がない子だ」

そう言いつつ、聖美の後ろにいた勇樹に気がついて、父はしかつめらしい表情から一変して破顔した。

「なんだ? 聖美の彼氏か? そんな所にいないで上がりなさい。風邪をひくぞ。さ、早くしなさい」

これには勇樹もポカンとした。

何事もなかったかのように、キッチンに入って行く父を眺め、聖美を見下ろす。

「お前んちの父さん、けっこう変わってるな?」

「や。聞かれても困る」

二人で玄関にいるのも何なので、とりあえず勇樹をリビングに案内して、聖美はお茶を淹れに立った。

「勇樹君。甘いもの、食べれる?」

「あんま気にしなくていいぞ?」

「や。きっと……」

言いかけたそのとき、父が大きなクリームたっぷりのホールケーキを持って入ってきた。

それを何も言わずに切り分けて、当然のように勇樹の前に皿を置く。

「さぁ、食べたまえ! 私の自信作だ」

勇樹は目を点にして、父と目の前のモノを見比べる。

「考えるためには人間糖分が必要だ! さぁ、男の子は遠慮しないで食べなさい」

「ケーキ作りが父の趣味なの」

聖美がおずおずと言うと、勇樹は軽く吹きだした。
< 20 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop