太陽と月の行進曲
「なんで木村の悪がきが、聖美の彼氏なのよ」

「悪がきだったのはガキのころの話だろうが!」

「今だって大差ないでしょ!」

「そんなことはないって!」

「よくもあの時、石を投げつけてくれたわね!」

「いつの話だよ!」

とても社会人と高校生の会話には聞こえない。どちらかというと聞くに堪えない感じだ。

仕方がなく聖美が大きな音をさせながらテーブルに茶器を置くと、二人とも黙り込む。

「お姉ちゃん?」

低い声で聖美が言うと、聖子は肩をすくめて片手を振った。

「悪かった。悪かったわよ。そんなに怒らないでちょうだい」

聖子はそう言うと、じろっと勇樹を睨み付けてから、笑みを浮かべて勇樹を見下ろす。

そうしているとキツイ顔立ちがますます強調され、とても怖いと言われるのを彼女は知っていた。

「うちの妹泣かせたら、ただじゃおかないよ?」

「馬鹿なこというな」

睨み合いはすぐに終わり、それを見計らったように父が勇樹に声をかける。

「では木村君、夕飯を食べて行きたまえ」

父の一言に勇樹は慌てて手を振り、困ったように聖美を見た。

「や。ケーキもご馳走になったし。夕飯までは悪いっす」

「遠慮することはない。どうせ作るのは聖美だ」

勇樹は一瞬考えて、それから姿勢を正すと真面目な顔をする。

「それは食べたいかも知れないっす」
< 23 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop