太陽と月の行進曲
小学の頃は同じクラスでもなかったので、母の葬式に勇樹が来るとは思えない。

同じ町とは言え、町内会の人間でもなければそんなものだろう。

「いや。だいたい俺は、お前が早退するの見てたし」

「そっか。そうなんだ」

とにかくその時の記憶は曖昧だ。

自動ドアを抜けてスーパーに入ると、何気なく聖美は勇樹に声をかける。

「じゃ、お弁当作ってあげよっか?」

「マジで!?」

「うん。別にいいよ。いつも3人分作ってるけど、結構、3人分って半端だし」

「……ついでかよ」

ちょっと不機嫌な声に首を傾げる。

「いらない?」

勇樹はとんでもないというように、思い切り首を振った。

「絶対いる!」

その真面目な顔が可笑しくて、聖美はクスクス笑う。

「勇樹君て面白いね」

「お前ほどじゃないって」

「私は普通だよ」

野菜売り場を眺めながら聖美は勇樹を振り返った。

「クリスマスのプレゼントはともかく、夕飯何がいい? 嫌いなもの、ある?」

「や。別にない」

姉は嫌いなものでも文句は言いながら食べるし、父はなんでも……場合によっては虫まで食べる人なので気にしない。

「好物とかってある?」

「うーん……から揚げ?」

「じゃ、鳥からにしよう」

人参一袋をカゴに入れ、ついでにレタスの芯を見ながら新鮮なものをカゴに入れていく。

次々に増えていくカゴの中身に、勇樹は感心した。
< 28 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop