太陽と月の行進曲
『駄目』

『駄目?』

『お母さん。倒れた』

それからいきなり泣き出した。

泣くと言っても、聖美はただ静かにポロポロと涙を流すばかりで、勇樹は他の男子たちと顔を見合わせる。

それから聖美は担任の手に引かれ、学校の門を出て行くのを見送った。

『なんだ? アレ』

不思議そうな勇樹の呟きに、今でも親友である要が首を傾げる。

『さぁ』

自分に興味がないものは関係ない。

ただ急に怪我が痛くなったのかもしれない。勇樹は聖美の泣いた理由を、身勝手な結論を結びつける事しかしなかった。

その時、勇樹は足元で光るものを見つけて、それを拾う。

透明な、雪の結晶の形をした小さなブローチだった。

恐らく、聖美が落としたものだろうと、勇樹は次の日隣のクラスまで届けに行って、聖美の母の訃報を知った。

それであんなに慌ててたのかと、遅まきながら納得して、クラスの女子にそのブローチを預けると、そのまま勇樹は聖美のことを忘れていた。

ただ、毎年、雪が降る時期になると、聖美は決まって窓の外を見るようになった。

最初、見たときには何だろうと思ったが、グラウンドで雪合戦をする男子を眺めているわけではなく、葉を落とした木を眺めていると気づいたのは、小学も卒業する年のことだった。

ちょっと楽しそうに、木に積もる雪を眺める聖美を見るのは勇樹も好きだった。

聖美が笑顔だったからかもしれない。

あの大きな目に、涙が溜まっているのを見るのは、なんとなく嫌だった。
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