太陽と月の行進曲
「幼稚園の黄色いカバンが嫌いだったから、赤いランドセルは好きだったと思う」

その言葉に勇樹は納得して、クスクス笑う。

「ああ。そっか。それでか」

「なにが?」

「桜の木の下でさ。すんごい不思議そうに俺のこと見てる女の子がいたんだよね」

「不思議そう?」

「うん。どうしてこの子は騒いでるんだろう? って感じに、ただ俺の方を見てるだけ。ちょっと恥ずかしくなって、俺も黙り込んだよ」

勇樹は呟いて、イルミネーションを眺める聖美を見た。

聖美は、彼が何を言おうとしているのか解らなくて、ゆっくりと、とてもこっそりと勇樹を振り返る。

視線が合うと、勇樹は苦笑した。

「前向いてろって」

「勇樹くんはこっち見てるのにずるい」

「俺はいいの」

またクリッと前を向かされて、聖美は唇をとがらせる。

「なんかずるい」

「いいんだよ」

また沈黙が下りて、聖美はもじもじとしだした。

「……それだけ?」

「や。何から話せばいいかなぁ~と思って」

「気詰まりになるよ」

「だろうなぁ」

勇樹は腕を組んで、首を傾げた。

「それから1年間くらいは、その子のことは忘れてたんだ。全然クラスも違ったし、その子はすごい大人しい子だったから」

「ふぅん?」

聖美と似たような子がいたのかと、ちょっと納得して話の続きを待つ。
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