太陽と月の行進曲
「で、2年の夏ごろ、その子のクラスと合同で、ウサギ小屋の掃除当番が当たってさ」

「……私も一度やったことあるよ」

当番は一週間だったが、母が亡くなって、一日目しか当番はやらなかった。

夏の暑い日だったと思うが、その日のことはあまりよく覚えていない。

「俺はサボってグラウンドで遊んでたんだけど、ぶつかってきて、いきなり泣き出す子がいてさ」

「怪我したの?」

「その子はね」

「痛かったんだろうね」

「きっと、心がね」

低い呟きに聖美は首を傾げた。

「こころ?」

「その子は、お母さんが倒れたって、静かに、とても静かに泣いてた」

聖美は数回瞬きして、パッと勇樹を振り返る。

そこにあるのは困ったような苦笑で、今度は前を見ろとは言わなかった。

「あの……」

そう言ってから、聖美は言葉に迷って口を閉ざす。

そうしていると、今度は勇樹がイルミネーションの方を向いた。

「そっからかな? その子が冬になると、必ず、教室の窓から木を見ているのに気がついたのは」

聖美は急にドキドキし始めていた。失っていた感覚を身体が取り戻して行く。

「もしかして……初恋?」
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