太陽と月の行進曲
小首を傾げたままの聖美に、奈々は大きく息を吐いた。

呆れているらしいが見捨てるつもりはないようだ。

聖美を席に着かせて、説教モードの顔になる。

「いーい? あいつは鬼よ! 先生方にも反抗的だし、騒ぎの元凶だし」

「うん。それはいつも見てる」

同じクラスになったのだし、ほぼ毎日、勇樹は授業中に眠っては、教師に叱られているのを知っている。

「今の調子でいったら、あんた、奴の奴隷よ?」

その言葉に聖美は口をつぐんだ。

奴隷というのは極端だが、言いなりになりそうな予感も若干ある。

「私、頑張って反抗してみる」

ちょっと拳をにぎったところで、当の勇樹が何も気づいたようすもなく、能天気な笑みを浮かべて聖美の背後に現れた。

「なぁなぁ加藤。今日の帰り空いてる?」

「え? 空いてない」

聖美は頭上を見上げて、勇樹と目を合わせる。

今日の帰りは、と言うよりも、実はいつも聖美の放課後は空いていない。

家族分の夕飯の買出しをしているし、夕飯作りのほとんが聖美の日課だ。

「えぇぇえ? なんでぇ?」

「買い物があるから」

「それつき合うし! 一緒に帰ろう?」

勇樹の真剣な表情に、聖美も少しだけ困った顔をする。

「だって、木村くんのうちは、うちと逆方向じゃ?」

「駅まで一緒するくらい出来るだろ! 俺、今日部活ないし。予鈴鳴るからまたな!」
< 8 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop