太陽と月の行進曲
「え。あ……」

手を伸ばしたが、すでに勇樹は席に戻ってしまっていた。

その様子を眺め、奈々はまた大きく溜め息をつく。

それからというもの、奈々に邪険にされながらも、勇樹は休み時間のたびに聖美のところに現れた。

話せば賑やかなのも案外面白い。どちらかというと一方的に勇樹が話しているのだが。

そしているうちに、何かに気づいたように勇樹が腕を組んで聖美を見た。

「お前って、ホント無口だね」

大人しいとは思うが、無口ではない。
ただ、話すタイミングが勇樹とはズレているらしい。

そのことには、聖美もしばらくしてから悟った。

「うん。木村君、早口だし」

「俺がぁ!? 俺が早口なら世間一般はみんな早口だよ」

呆れたように言って、今度は聖美を覗き込む。

「ところで、俺。勇樹な?」

唐突に言われて、瞬きする。

「木村勇樹な?」

フルネームくらいは知っている。いまさら何を言っているんだろう?

「うん。知ってる」

「言ってみ?」

「木村君?」
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