雪降る夜に教えてよ。
「え。秋元ちゃんて東和女子なの? お嬢様学校って言われているけど、進学校じゃないの」

「今どき数少ない女子高ですよね。合併しちゃう学校も最近じゃ多いし」

みんなで盛り上がっていたら、桐生さんは微笑みながら黙ってウーロン茶を飲んでいた。


そうして我妻さんがみんなからのカンパの花束を渡されて涙ぐみ、ちょっとしんみりしちゃったけれど、それでも簡単な祝辞と一緒に皆にお祝いをされ、和やかに飲み会もお開きになった。

その流れで、二次会に行く人と帰る人とがわかれる頃、早良さんたちのグループにいた私の腕を、桐生さんは無言で掴んで片手を上げる。

「じゃあ、また明日」

爽やかにそう言って、ぐいぐいと私の腕を掴んだまま歩きだした。

土橋さんたち“お買い物組”は吾妻さんの所に固まっていて気づかれなかったけれど、棚橋さんと浅井さんはポカンとして、早良さんだけがにこやかに手を振ってくれた。

「桐生さん?」

「一度会社戻って車取りに行こう」

微笑みながら優しく言っているのとは裏腹に、がっちりと掴まれた腕。
逃げ出されないようにされているようで違和感を覚える。

「あの。掴んでなくても、一緒に帰ります」

「あのままの流れで、早良さんたちと帰ろうとしていたくせに」

……えー。
だって、桐生さんとは別に一緒に帰る約束もしてなかったし、どっちでもよかったと思うんだけれど。

ああいう場合って、やっぱり当然の様に“彼氏”と帰るのが暗黙の了解になっているのかな。

その“当然のこと”っていうのが、まだ私にはなれない出来事なんだけれど、それが普通の事なのかもしれない。

「桐生さんだって、最後まで黙っていたじゃないですか」

「うん。さすがに日本の地域限定の話になると、俺は全然わからないよ」

……んん?

ちょっとだけ低められた声音に、顔を上げて桐生さんを見た。

素っ気なさそうな、普通の表情を浮かべているけれど……。

「……拗ねています?」

「拗ねてます」

あのね? 人間、馬鹿正直になればいいというわけではないと思うんだ?

「わかりにくいですねー……」

「最低限、会社の飲み会で不機嫌そうな顔をしていられないでしょ」

「……今日の飲み会、OKしたのはあなたですからね?」

そして私を巻き込んだのもあなたですからね?

毒を含んだ言葉は通じたみたいで、ちらっと視線が合うと、困ったように逸らされる。

「反省した」

そうです。反省して下さ……いや。反省までしなくてもいいんですけれど。
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