雪降る夜に教えてよ。
「あー……ちょっと今の出来事は忘れよう。というか忘れてくれ。ちょっと恥ずかしい」
恥ずかしい? その恥ずかしさは馴染みがないけれど、子供っぽい事をしているのは自覚があるのかな。
「とりあえず、手を離してくれたら忘れます」
ちょっと、これじゃあ強制連行されている気分になるし。
無言のまま視線が合わさって、しぶしぶ掴んででいた腕を離してくれた。
「ごめん。なんだか余裕がない人間みたいだな」
「いえ。まぁ……」
どうしていいのかはわからないけれど、そんな一面もあるんだと知ったというか。
ちょっと気恥ずかしい沈黙の中、ゆっくりと会社までの道のりを二人で並んで歩く。
夏の風はどこか生ぬるくてすっきりとしない。それでもないよりはいい。
影絵みたいなビル群の間にぽっかりと浮かんだ三日月を見ながら、しっとりとした空気に苦笑する。
「やっぱり夏は暑いですね」
「……そうだね。夜になっても熱帯夜は続くかな。お前は夏が苦手? オフィスでもぐったりしていたよね?」
ぐったりどころか、眩暈がしそうだったよね。
「私は冬生まれですから。生まれた季節で強い時期があるみたいですよ」
「なら、俺は秋生まれだから、今の時期がつらくて当たり前なのかな」
桐生さんは呟いて、それから私を見下ろした。
「ところで、フランス料理が苦手なの?」
「え?」
「さっき、本当に嫌そうにしていたし、急に話を変えだしたし」
……まぁ。やっぱり露骨すぎたよね。不思議に思っても仕方がないか。
「どうで食べるんでしたら、仕事みたいな堅苦しい中で食べたくない料理の一つでしょうね」
「……っていっても、どうせ開催地は日本なんだし、晩餐会並みに堅苦しくはならないと思うよ? マナーが心配なら、一度食べに行ってみるかい?」
晩餐会とか逆に見てみたい。ただ興味半分で“見てみたい”ってだけ。
でも……こういう事を普通に言われると“いいところの坊ちゃん”なんだなぁって実感しちゃうな。
「雰囲気が嫌なんですよ」
「雰囲気?」
「普通の商品展示会とかでしたら、私も参加したことありますけれど、それに加えて食事会でもあるんですよね? ずっと愛想笑いしていないと異端児扱いされるじゃないですか」
ぼやくように呟くと、桐生さんはそんな私をじっと見つめ……。
そして、唐突に身をかがめて顔を覗き込まれる。
「……参加したことがあるように言うね?」
恥ずかしい? その恥ずかしさは馴染みがないけれど、子供っぽい事をしているのは自覚があるのかな。
「とりあえず、手を離してくれたら忘れます」
ちょっと、これじゃあ強制連行されている気分になるし。
無言のまま視線が合わさって、しぶしぶ掴んででいた腕を離してくれた。
「ごめん。なんだか余裕がない人間みたいだな」
「いえ。まぁ……」
どうしていいのかはわからないけれど、そんな一面もあるんだと知ったというか。
ちょっと気恥ずかしい沈黙の中、ゆっくりと会社までの道のりを二人で並んで歩く。
夏の風はどこか生ぬるくてすっきりとしない。それでもないよりはいい。
影絵みたいなビル群の間にぽっかりと浮かんだ三日月を見ながら、しっとりとした空気に苦笑する。
「やっぱり夏は暑いですね」
「……そうだね。夜になっても熱帯夜は続くかな。お前は夏が苦手? オフィスでもぐったりしていたよね?」
ぐったりどころか、眩暈がしそうだったよね。
「私は冬生まれですから。生まれた季節で強い時期があるみたいですよ」
「なら、俺は秋生まれだから、今の時期がつらくて当たり前なのかな」
桐生さんは呟いて、それから私を見下ろした。
「ところで、フランス料理が苦手なの?」
「え?」
「さっき、本当に嫌そうにしていたし、急に話を変えだしたし」
……まぁ。やっぱり露骨すぎたよね。不思議に思っても仕方がないか。
「どうで食べるんでしたら、仕事みたいな堅苦しい中で食べたくない料理の一つでしょうね」
「……っていっても、どうせ開催地は日本なんだし、晩餐会並みに堅苦しくはならないと思うよ? マナーが心配なら、一度食べに行ってみるかい?」
晩餐会とか逆に見てみたい。ただ興味半分で“見てみたい”ってだけ。
でも……こういう事を普通に言われると“いいところの坊ちゃん”なんだなぁって実感しちゃうな。
「雰囲気が嫌なんですよ」
「雰囲気?」
「普通の商品展示会とかでしたら、私も参加したことありますけれど、それに加えて食事会でもあるんですよね? ずっと愛想笑いしていないと異端児扱いされるじゃないですか」
ぼやくように呟くと、桐生さんはそんな私をじっと見つめ……。
そして、唐突に身をかがめて顔を覗き込まれる。
「……参加したことがあるように言うね?」