雪降る夜に教えてよ。
「……仕事だから、仕方ないということでしょうね。女性はドレスアップが基本なんですか?」

「そう」

「結婚式用の服装でいいんでしょうか?」

「エスコーターは僕なんですが。それはどんな服装なんだろうか?」

困ったような彼の言葉にこめかみを押さえる。

桐生さんはいつもブランド物のスーツだよね。

しかもオーダーメイドのスーツ……そのグレードにに合わせたドレスアップかぁ。

「どうにかします」

「よろしく」








***



そんな理由で、私は佳奈と買い物に来ていた。

「要はどれだけドレスアップすればいいかってことよねぇ」

佳奈はぶつぶつ呟きながら、ふわふわフリルのワンピースを取り出した。

「コレ可愛いよぅ!」

おいおいおい。
まさか“会社の親睦会”にそんなお花畑にいそうな服装は無理でしょう?

「……色はピンクじゃない方がいいなぁ?」

「そうだね。さなちゃんには似合わないねぇ」

佳奈はふわふわフリルをハンガーに戻し、次々と物色していった。

結局、佳奈と半ばけんかをしながら落ち着いたのは、ちょっとお洒落な感じのパンツスーツだった。

「なんか、いつもと変わらないような気がするょ」

難しい顔をする佳奈を宥めながら、帰り際に近くにあったバーに入り、紙袋を眺める。

「いいわよ。桐生さんも仕事って言っていたし。ブランド物のスーツにブランド物のパンツスーツならおかしくないと思うし」

「おかしくないけど、全身真っ黒って、ちょっとお葬式みたいだよぅ?」

「黒が好きなんだし、しょうがないでしょう!」

佳奈の選ぶようなパステルカラーのワンピースや、サテン生地のツルツルしたドレスじゃ、どこの夜のお姉さんかと思っちゃうよ。

そう考えていたら、いきなり聞き覚えのある声が聞こえて、驚いて顔を上げる。
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