雪降る夜に教えてよ。
「いらっしゃいませ。お嬢様方」

「一条さん?」

目の前には裕さんがいて、ニッコリとカクテルを差し出してきていた。

「いいところにいらしてくださいました」

言いながら、彼はグラスを差し出す。

「当店オリジナルのカクテルなんですよ。ご賞味下さい」

や、あなたのお店のオリジナルカクテルって、ちょっと危険なんですが。

「今日は隆幸もいないんでしょう? 秋元さんのはノンアルコールだから大丈夫です」

人の良さそうな微笑み付きでそう言って、白い液体の入ったグラスをテーブルに置く。

「こちらのお嬢さんは、お酒は平気ですか?」

佳奈は数回瞬きして、首を傾げた。

「桐生さんのご親族の方ですかぁ?」

佳奈、紹介してもいないのに鋭い! 驚いたのに気が付いたのか、種明かしをしてくれる。

「だってさなちゃん、一条さんて呼んだもの。桐生グループと一条グループは確か縁戚関係だって財界雑誌に書いてあったし。一条さんも桐生さんの下の名前呼んでたし」

財界雑誌って……佳奈はそんなもん読んでるの?

ん? でも桐生グループって何?

裕さんは目を丸くすると、佳奈を見て首を傾げた。

「失礼。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

佳奈は裕さんからカクテルを受け取ってニコリと微笑む。

「ありがとうございます。私は西園寺佳奈と申します」

「もしかして華道の……?」

「そうですね。私は末っ子ですから関係ありませんよぅ」

ああ。そっか。佳奈もれっきとしたお嬢様だった。

確か何代か続く華道の家元の末っ子。
佳奈もそうだけれど、佳奈の家族も普通に接してくるから、あまり意識したことはないけれど、自宅は門構えもどっしりとした純日本家屋だものね。

納得していたら佳奈はクスクス笑って、裕さんから受け取った綺麗な色合いのカクテルを飲む。

「長い付き合いで、忘れるのはさなちゃんくらいだねぇ」

「普段の言動と行動を振り返って見てみなさい」

お嬢様ならお嬢様らしくしろと言いたいけれど、それはそれで私と“友達”になんてならないだろうなとも思う。

「なんとなくヤダよぅ」

佳奈は小さく舌を出して、それから笑った。

「西園寺さんと秋元さんとは長いお付き合いなんですか?」

裕さんの言葉に、佳奈は面白そうに顔を上げる。

「高校からの親友です。一条さん、お誘いも社交辞令もけっこうですよぅ。私とさなちゃんに話し掛けたいなら、人柄で勝負して下さいねぇ」

か、佳奈!?
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