雪降る夜に教えてよ。
「私には好きな人がおりますし、さなちゃんにも桐生さんがいますから」

て、あんた何を言って……ビックリした私をよそに、裕さんは笑った。

「それは残念。やはり人柄では隆幸に敵いませんか」

「気まぐれそうな人に、私の親友は任せらるませんしぃ?」

佳奈は微笑みながらそう呟き、裕さんを指差して私を振り向く。

「さなちゃん、こういう人を俗に女の敵って言うから、気をつけてねぇ? こういうタイプの人って、引っ掛かる女の人を誘うだけ誘って決して懐を明かさない。興味がなくなればポイだよぉ」

とんでもない発言をされながら、裕さんは完璧な笑みを見せている。

「これはかなり手厳しい」

「そう思ったのでしたら、怒ればいいでしょう?」

「佳奈! あんたは何をケンカ売ってるのよ」

さすがに割り込むと、佳奈は肩を竦めてみせた。

「ちょっとしたやり取りだよぅ」

これがちょっとしたやり取りなら、うすら寒いわ!!

「心臓に悪いからやめて」

「わかった!」

佳奈は元気にそう言うと、メニュー表を見て、何事もなかったかのように裕さんを見上げる。

「今のもおいしいですけど、カンパリオレンジをお願いしますぅ」

それを受けて裕さんは優雅に一礼すると控えめに微笑んだ。

「……かしこまりました」

そう言って気にした様子もなく去って行くからホッとする。

「ちょっとあんた、本気で心臓に悪いから」

「だってぇ。さなちゃんに不用意に近づこうとするからだもん」

「そんなことなかったでしょうが」

佳奈は首を振って真面目な表情を作り、身を乗り出した。

「あのまま話をしてたら、間違いなくさなちゃんの隣に座って、目の前に座っている私に話かけてたよ? 一条さんの隣に座りたかったなら別だけどぉ……違うよね?」

確かに、そう行った形で座るのは特におかしくない。
おかしくは無いけど、計算付くと言いたいの?

「桐生さんなら、もっとスマートに追い払ったかもしれないけど、私には絶対に無理な事だもん」

佳奈は佳奈なりに考えてくれたらしい。

無言で目の前のグラスを手に取ると軽く佳奈のグラスに当てる。

「ありがとう。気づかなかった」

「さなちゃんだもの、しょうがないよぅ」

仕方ないって言われてもなぁ。

「私って、どうしてこうも疎いんだろうね」

ぼやくと声を上げて笑われた。
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