雪降る夜に教えてよ。
***



そして数日後の昼日中。

上を見上げれば煌めく天井のシャンデリア。横を見ると豪勢ながら落ち着いた花柄の壁紙。

ピシッと糊の効いた制服に身を包むボーイやウェイトレス。

色の濃いタキシードやスーツを着た男性陣。思っていた以上に華やかで、色とりどりのドレスを軽やかに着た女性陣。

「とっても場違いな気分」

がっくりしていると、桐生さんは困ったように苦笑しながらスッと腕を伸ばして時計を見た。

「無難なとことだとは思うけど、スーツなんか選ぶからだよ」

これは佳奈のセンスの方が正しかったらしい。私は逆に地味で目立つ。

桐生さんとこそこそと言い合って、会場に足を踏み入れる。

「よかったな。今回はイタリアンの立食らしい」

それはこの際たいして変わりませんよ。

悠然と落ち着いている桐生さんを眺め、溜め息をついた。

やっぱ場慣れしてるとこ見ると、さすが坊ちゃんなんだなぁと思う。

挨拶に来る人来る人にソツなく挨拶を返して微笑んでいる。
だけど、何故企業のマネージャーに過ぎない桐生さんに、こんなに挨拶しに来る人がいるんだろう?

何気なく、桐生さんの後ろに控えて聞き耳を立てた。

「父君はお元気ですか?」

そう言っている男性のネームプレートを見て目を丸くする。

間違いなくそこには【三浦俊哉 三晶株式会社 取締役】の文字。

社長さんか!

「父は今、海外なのでどうしているかは存じませんが、恐らく元気でやっております」

桐生さんは営業スマイルでそう言って、ボーイからグラスを受け取り、さりげなく私に渡してくれる。

「アメリカですかな?」

「一週間前はオセアニアにおりました」

グラスの中身は、飲んでみるとただの炭酸だと判る。

よかった。お酒なら大変だ。

「ほう。相変わらず、行動的なお人柄ですな。オセアニアなど、何があるんでしょう」

「さて。僕は父の仕事を関知しておりませんので。失礼」

桐生さんはニッコリと微笑むと、私の背中をそっと押して歩き出した。

今のは俗に言う、おべっか使いですかね。

「本当に日本企業が多いな」

ぼそっと呟いた桐生さんを見上げる。

「問題でも?」

「果たして仕事になるか……父や祖父の話にしかならないんじゃないか?」

「……大変なんですね」

「想像以上に」
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